篠嶋研究室


論文

 

 

 

 

フェーズフィールド法を用いたAl-Zn二元合金の一方向凝固シミュレーションを行った。結果を視覚化し、Znの濃度C0、温度勾配C、成長速度Vの結晶成長形態及び平滑界面の安定化に対する影響を調べた。成長速度Vが大きくなるにつれて、固液界面は平滑界面から、くぼみを伴った平面となり、次いで波状界面に変化した。波状界面をもつ結晶内部はZnが偏析してセル状構造を形成した。このセル状偏析構造における結晶先端の曲率Rは成長速度Vが大きいほど小さくなり、セル状構造の横幅も増加することがわかった。界面の安定性はG/Vと濃度C0の値で決まり、特に低濃度における平滑界面安定を示す境界は濃度C0に比例することがわかった。この境界線を表す式を求めるとG/V=2.78×109×C0となり、傾きの値は組成的過冷の理論値の70%程度になった。また、計算で得られたセル状構造の横幅は、デンドライト成長理論の予測とよく一致した。

 

フェーズフィールド法を用いてAl-Zn二元合金の一方向凝固過程におけるデンドライト成長のシミュレーションを行った。Znの濃度場およびフェーズフィールドの時間変化を計算し、これにより結晶成長形態に及ぼす凝固速度や温度勾配の影響を調べた。凝固速度が速くなるにつれてデンドライト1次枝の先端曲率半径Rは小さくなり、単位長さあたりの枝の本数が増加すること(すなわちデンドライト1次枝の間隔λ1は減少)、凝固時間が経過するにつれてデンドライト2次枝の間隔が大きくなることをシミュレーションは動的に提示した。成長速度Vが速くなるとデンドライト1次枝の間隔λ1はV-0.5で減少し、2次枝の間隔の3乗λ23は凝固時間tに比例することを検証した。また、デンドライト成長理論とフェーズフィールド法から得られた、曲率半径RとRに対する速度Vのべき乗指数の値を比較した結果、数値の一致が良好であることが確認できた。

二元系合金の凝固過程を解明するために、透明有機化合物としてサクシノニトリル(SCN)‐アセトンをモデル合金系とし、一方向凝固法を用いて結晶がデンドライト成長する様子をその場観察した。デンドライトの1次枝間隔(DAS1)と2次枝間隔(DAS2)の、結晶の成長速度に対する関係について調べた。200μmのスペーサを挟んだスライドガラス(26mm×76mm、厚さ1.3mm)(以下セルと呼ぶ)に試料を入れて、一定の温度勾配(1K/mm)のもとでセルを低温側に一定速度Vで引っ張った。引っ張り速度を変化させることで、結晶の成長速度を変化させた。試料の組成はSCN-1.9mass%acetone、SCN-6mass%acetoneとした。1次枝間隔については、1.9mass%のみ測定した。1次枝間隔は成長速度Vの-1/2乗で変化した。これは、一方向凝固したAl-(0.1〜6.9)mass%Siの1次枝間隔と冷却速度の関係とほぼ同じである。2次枝間隔は、1.9mass%、6.0mass%共に成長速度Vの-1/3乗で変化した。しかし、ある成長速度を超えると、1.9mass%、6.0mass%共に2次枝間隔がVの-1/3乗よりも急激に減少した。6.0mass%は1.9mass%よりも早くVの-1/3乗の曲線から外れた。

シリコンのナノインデンテーションの計算機実験を行った。シリコンの相互作用ポテンシャルとしてStillinger-Weber型を仮定し、円錐形の剛体圧子をシリコン単結晶に一定荷重で押し込んだ。荷重‐押し込み深さ曲線を取り、最大押し込み深さから硬さを評価した。硬さの値はシリコンの実験値と同程度という妥当な結果を得た。インデンテーション試験中の圧子の近傍に位置する原子の動径分布関数と結合角度分布を計算した。押し込み変形を受けている領域の原子は長範囲秩序を持たない準安定アモルファス構造をとることがわかった。

フェーズフィールド法を用いてサクシノニトリル‐アセトン二元合金の一方向凝固シミュレーションを行った。アセトンの濃度場およびフェーズフィールドの時間変化を計算し、これにより結晶成長形態に及ぼす凝固速度Vや温度勾配Gの影響を調べた。デンドライト1次枝の間隔λ1について、λ14G2V/kT0(ただしkは分配係数、T0は液相と固相の温度差)とVの曲線を比較した結果、今回の計算により得られた曲線が一定以上の温度勾配で実際の実験により得られた曲線の延長線上にあり、G=0.05で実験のべき乗指数とほぼ同値のべき乗指数が得られた。λ1-V曲線の低温側温度、濃度による変化は見られなかった。計算により得られた曲率半径Rと成長速度Vの曲線は、実験により得られたR-V曲線の延長上にのった。また、デンドライト成長理論とフェーズフィールド法の曲率半径Rの値と、曲率半径Rに対する速度Vのべき乗指数の値を比較した結果、数値の一致が良好であることが確認できた。

分子動力学法を用いて、超微小スクラッチ試験の計算機シミュレーションを行った。1008個のシリコン原子からなるダイヤモンド構造の単結晶を試料とした。完全剛体の圧子を仮定し、圧子とシリコン原子間の力の計算にはMorseポテンシャルを使用した。シリコン原子間の相互作用は、Stillinger-WeberのポテンシャルとTersoffのポテンシャルの2通りの場合について計算した。Stillinger-Weberポテンシャル、Tersoffポテンシャルを用いたモデル共に摩擦係数の標準偏差は圧子が試料表面をスクラッチする深さが浅くなるほど大きくなり、表面をちょうど引っ掻き始めるときに極大となることを明らかにした。この臨界荷重における摩擦係数は1.2〜1.6、押し込み硬さは80〜90GPa、引っ掻き硬さは8.5〜9.4GPaと評価された。

TiNおよびSiO2基板上のAl、Cu薄膜のナノスクラッチ試験を分子動力学法によりシミュレートした。摩擦係数の標準偏差が最大の時に薄膜の剥離が生じることを指摘した。また、摩擦係数の標準偏差の最大値が実際の実験で評価された剥離強度をよく再現した。このことから、ナノスクラッチ試験における摩擦係数の標準偏差の最大値を界面の接合強度の評価に利用することを提案した。

  • 「シリコンナノ結晶の凝集過程と構造安定性:分子動力学シミュレーション」
     篠嶋 妥, 赤羽 智明
     日本金属学会誌 第71巻 (2007) pp. 539-544.

分子動力学法を用いて、シリコンナノ結晶の凝集過程を計算機でシミュレートし、その構造安定性について検討した。ダイヤモンド構造を取るシリコン原子からなる直径1.6nmの超微粒子をランダムに回転させた後に面心立方格子に配置して試料とした。その周囲を完全剛体の壁で囲み、所定の圧力で試料を圧縮した。その際、温度を一定に保った。シリコン原子間の相互作用はTersoffのポテンシャルを仮定し、剛体壁とシリコン原子間の力の計算にはMorseポテンシャルを使用した。平衡状態に達した後の構造について動径分布関数を解析して、シリコンナノ結晶の安定領域を決定した。構造安定の限界は1.013×105Paで750K付近、1.013×109Paで300K付近となった。また、配位数の平均値の時間変化を計算して、ダイヤモンド構造の4配位の割合は高温になるにつれ減少して3配位の割合が多くなること、高圧のほうが4配位の減少が緩やかになることを明らかにした。

  • "Determination of the Phase-Field Parameters for Computer Simulation of Heat Treatment Process of Ultra Thin Al Film"
     Junpei Kageyama, Yasushi Sasajima, Minoru Ichimura and Jin Onuki
     Materials Transactions Vol. 48 (2007) pp. 1998-2001.

Al薄膜の粒成長のシミュレーションをKobayashi-Warrenモデルを用いたフェーズフィールド法により行った。フェーズフィールドパラメーターは実際の実験結果を再現するように最適化して決定した。いくつかの温度で等温アニールのシミュレーションを行って、粒成長の温度依存性を確認した。

  • "Nanoscratching of Metallic Thin Films on Silicon Substrate: a Molecular Dynamics Study"
     Tomoaki Akabane, Yasushi Sasajima and Jin Onuki
     Journal of Electronic Materials Vol. 36 (2007) pp. 1174-1180.

シリコン基板上のAl、Cu、Ti、W薄膜のナノスクラッチ試験を分子動力学法によりシミュレートした。摩擦係数の最大値が薄膜の剥離を検出できることを実証した。摩擦係数の最大値はヘテロな界面の接合強度とよく対応した。このことから、ナノスクラッチ試験における摩擦係数の最大値を界面の接合強度の評価に利用することを提案した。